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「尾道方式」 - 尾道市医師会方式から
尾道方式へ
主治医機能支援システム「尾道方式」
尾道市医師会主治医機能支援システムの構築から-尾道市医師会方式地域包括ケアシステムに進化-
元尾道市医師会 会長 片山 壽 (尾道市医師会地域医療システム研究所 所長)
尾道市医師会医療圏の高齢化率は「尾道市医師会医療圏整備基本コンセプト1994」当時の19.24%から予測以上に上昇、2015年3月末には33.34%に達して超高齢医療圏となった。超高齢者医療に対応するには、この地域特性にあわせた地域包括ケアシステムが必要となるが、尾道市医師会は基本設計に沿って、以下に紹介するプロセスで高いレベルで構築が進んでいる。
地域包括ケアシステムの根幹は地域医療連携
超高齢社会に求められる医療は実際には予測を上回るものであり、在宅主治医機能の重要性がさらに増しているが、基本の尾道市医師会主治医機能3原則とCGA理論の深い理解とカンファレンスの実践により対応可能である。ここで尾道市医師会が進めてきた在宅医療がチーム医療へと発展して、急性期病院との地域医療連携、周辺職種の多職種協働の標準化を実現した。地域医療連携は地域医療の高度化につながり、重度患者の在宅復帰や高齢癌患者の在宅緩和ケアが可能になっているが、認知症治療の総合化には未だに課題を残している。
尾道市医師会がケアマネジメントの理解のために導入した理論はCGA
CGA(Comprehensive geriatric assessment:高齢者総合評価)は、1930年代の英国の老年科医のマージョリー・ウォーレンにより提唱された、高齢障害者の長期フォローアップの方法論であるので、この理論の正しき理解により多様な医療・介護ニーズを持つ超高齢患者の長期フォローアップにおいて医学的管理を行うのが主治医機能の最重要の領域といえる。
介護保険導入とともに高齢者医療に携わる医師達に求められる領域が変わってきたということであるが、医師として能力と同時に患者(利用者)の生活障害を理解し、ケアマネジャーなどの関係職種と継続的なチームスピリットをカンファレンスの実践により、主治医機能を発揮せねばならない。
高齢者総合評価(Comprehensive Geriatric Assessment)
1930年代に英国の老年科医マージョリー・ウォーレンが提唱した学際的概念で、いわゆる欧米における老年医学の流れの中にある、障害高齢者の全人的評価の理想に近づくための再現性のある評価手法。当時、英国の救貧院病院等で半ば放置されていた高齢者の医療現場に、リハビリテーションの概念を取りこみながら、各分野の専門家が協同して多面的に-医療的、社会的、心理的、機能的観点から-個人の機能(残存能力)と問題点を評価する当時としては画期的であり、尚且つ今日においても世界中で再評価されている老年医学の方法論。90年代の米国で開発されたMDS-RAPsはその簡易版としての応用例の一つである。
1950年代の北欧の高齢者ケアの急速整備の基礎理論は、CGAに端を発するといわれている。
CGAの基本概念
伝統的な医学的問診や診察方法にリハビリテーション医学の機能評価や治療理論、ソーシャルワークの社会学的・心理的評価理論を統合させた学際的手法により、障害高齢者の課題(ニーズ)を抽出して「全人的ケアマネジメント」を体系化・標準化する。
CGAの主な目標
①より正確な診断
②適正な医学的治療・ケア
③適切な生活の質の向上
④適切な生活の場の選定
⑤長期間の正確なフォローアップ評価
⑥長期間のケアマネジメント体制
⑦適切なサービス利用(不適切なサービスを減らす)
CGAの特色
①評価の主眼を疾病治療だけでなく、機能的状況や生活の質に重点を置く
②標準的な医学診断に機能評価手法を多角的に組み合わせる
③標準化した、できるだけ定量的な評価手法を多用する
④総合的な各分野の専門家を統合したチームアプローチを重視する
⑤長期的なフォローアップを重視する
2000年、我が国は介護保険によりケアマネジメントを導入したが、このマネジメントを現場において、あらゆる職種に普遍的に導入する手法こそがカンファレンスである。
超高齢社会においても多職種協働の適切な機能分担は不変であり、必要な総合的情報の確認、それに伴うマネジメントの作戦会議がカンファレンスである。高齢者医療とケアは一体的に適切に提供されることが必要であり、カンファレンスは地域包括ケアシステムの構築には不可欠であり、多職種への教育効果としても大変に有用性が高い。
90年代初頭からの尾道市医師会の一連の取り組みは、会員の不断の努力により進化を続けているが、今後の超高齢者医療・介護の政策の方向性に対しての、超高齢化の現実に直面した地域医師会の継続的な挑戦である。
システム整備の経緯
94年当時、全国を15年先行するといわれた高齢化率の高い医療圏に対して、担当医師会として成すべき事業の議論を進め、医療提供環境の整備と同時に、医療と看護・介護連携のソフト部分の充実を盛り込んだ地域包括ケアシステムの構築を目指し、基本コンセプトを策定しながら臨時総会での承認を受け具体的な準備に入った。
尾道市医師会基本コンセプト1994
1. 必要な医師会事業の連続的な整備のコンセプトを明示して継続的な説明責任。
2. 最重点は主治医(かかりつけ医)機能。(尾道市医師会主治医3原則を参照)
3. 主治医機能を最大限に発揮できる環境整備が医師会事業。
4. ほどよくシステム化された医療提供サービス体制の整備が基盤。
5. 包括的にして連続性のあるシステムづくり。
6. 医師会事業に対する信頼性の確立・制度管理。
7.医療専門職集団としての地域貢献(制度対応)と人材育成。
基本コンセプト1994の概略説明
1.医師会事業の連続的な整備に対して会員にコンセプトを明示して継続的な説明責任
医師会病院ではなく、高齢者のケア施設としての介護老人保健施設を選択したのは、高齢化率の大変高い医療圏であることと、フレキシブルな在宅支援施設でありリハビリテーション施設としての機能が必要と判断したからであり、3中核病院との地域医療連携に信頼をおいていたからである。また、施設建設には巨額の費用がかかり、医師会員に負担を求めるためにコンセプトの適正さについて理解を求め、合計4回の総会で議題として上程し連続承認を得ている。
2.最重点は主治医(かかりつけ医)機能と設定。
尾道市医師会主治医機能3原則2008年(オリジナルは94年)
①multiple functions(多機能をもつこと)
・在宅医療:end-of-life-care・看取り・24時間対応・在宅緩和ケア
・連携機能:在宅チーム医療・地域医療連携・看護、介護との連携・ケアマネとの連携
・長期マネジメント機能:長期継続ケア・各種カンファレンスの継続・多職種協働
・認知症早期診断・治療・ケア の総合化
②flexibility(柔軟な対応を行うこと)
・利用者や家族の状況の理解:長期フォローアップにおける療養環境の整備
・的確にしてタイムリーなサービス選択とアクセス
・利用者本位のサービス提供:個人の尊厳、QOLの重視・アドボカシー
③accountability(説明責任)
・利用者が知りおくべき情報については適切な説明を行い共通認識とする
・インフォームドコンセントにおけるズレをなくす努力
・カンファレンスを通じて関係多職種との共通認識に必要な説明責任
・コミュニケーション技術(リスニングスキル)を駆使して信頼の基盤構築
在宅主治医(かかりつけ医)の果たすべき機能と責任を明確にして、コミュニティにおけるグループプラクティスの実践や多職種協働の標準化をすすめる。
要するに、医療の最小単位である一対一の患者と医師の間で行われる医療において、どこまで適切な対応が出来るか、信頼関係が成立する医療サービスとなりうるかの命題への地域医療の連続的挑戦であり、個々の単位で医療の質の最前線と認識している。
基本的には、さまざまな形態での地域医療連携と多職種協働が地域包括ケアシステムとして機能することである。
3.主治医機能を最大限に発揮できる環境整備が医師会事業。
在宅主治医が単独でも主治医機能を発揮できる「在宅主治医機能支援システム」の整備を進めることを目的とした医師会事業(医師会共同利用施設)とする。
結果として、医師会訪問看護ステーション(1995)・医師会介護老人保健施設(1997)・在宅介護支援センター(老健内1997)・24時間ヘルパーステーション(老健内1998)・ケアマネジメントセンター(研修機構1999)・居宅介護事業所(訪問看護ST・老健2000)を計画に沿って連続整備した。
在宅医療・ケアにおいて医師会独自の事業によるシステムからのサービス支援が確保できることにより、在宅主治医機能を高度に実践できる環境を整備することであり、地域のあらゆる資源(看護、施設介護、在宅介護、民生委員など)とのカンファレンスによる地域包括ケアシステムの中核となった。
4.ほどよくシステム化された医療提供サービス体制の整備が基盤。
尾道市医師会救急蘇生委員会で1991年に医師会として救命救急は最優先課題であることは示していることで、急性期病院と開業医の地域医療連携の基礎が確立している。システム化ということは基盤に地域医療連携の高度化により、市民への医療サービスの質を高くすることであり、日常診療レベルの向上につながっている。適切な医療資源へのアクセスビリティの確保と共通認識があればこそ重層的な医療サービスがタイムリーに提供できる。
これは、一人診療所で奮戦する「在宅主治医」をサポートして、最大の能力を引き出すシステムであり、バックアップ(安心の基盤)として91年に整備した尾道市医師会救急蘇生委員会の救急救命システムがある。
5.包括的にして連続性のあるシステムづくり。
尾道市医師会の担当医療圏が超高齢地域になることを前提にして、超高齢者の長期フォローアップには医療だけでは限界があり、地域のあらゆる資源との適切なコラボレーションを継続する地域包括ケアシステムは重要である。この連続性を担保するのがカンファレンであり、退院前カンファレンスは入院から在宅への継続医療・継続リハビリテーションの確立は大変重要である。
6.医師会事業に対する信頼性の確立・制度管理
地域医師会のシステムが提供する医療・看護・介護サービスに最も求められることは、サービスの質の管理と地域水準の向上への貢献である。
尾道市医師会のシステムの特徴は会員の事業体との連携支援であり、新規開設の施設などには職員研修やノウハウの提供を行い、全施設加入で介護老人保健施設連絡協議会を設置(98年)して、疥癬をはじめ感染症対策においてネットワークを形成している。
当時の発展型として2000年6月には地域の全介護保険施設が加入した尾道・御調・向島地区介護保険施設連絡協議会(現・尾道市介護保険施設連絡協議会)が発足し、医師会介護老人保健施設に事務局を置いている。これは同種の事業を行う施設にも基準(身体拘束ゼロ等)を示していくことで、広汎な支援体制とともに地域におけるスタンダードの設定を行った。
7.医療専門職集団としての地域貢献(制度対応)と人材育成
地域医師会は医療専門職の団体として高い学術性をもつ頭脳集団であるので、自らの研鑚は当然のことながら、関係職種の養成に積極的にかかわらねばならない。地域包括ケアシステムは建物などハード部分が立派でも、ケアマネジメントにおけるサービスの質を担保するのは人材であるので、ソフト部分(スタッフ)の育成と継続研修が必須であり、理想の多職種協働はスタッフの柔軟で訓練された頭脳とハート(品性)によってもたらされる。
実際に、99年に尾道市医師会ケアマネジメントセンター主催で2回行った、オリジナルの尾道市医師会方式ケアカンファレンスの実務研修が、2000年4月時点でケアカンファレンス実施率96.7%(調査対象利用者数:422人)の根拠であり、地域包括ケアシステムの創設期における最重要のプロジェクトであった。
1994年から継続した医師会主催・高齢者医療福祉問題講演会は140回の連続開催で、政策担当官僚を含む国内の優秀な人材から知識を吸収したことは、ほかに例を見ない人材育成の研修システムと評価されている。
参考:2004年11月の主治医機能調査では、ケアカンファレンス開催の主治医は94.3%となっている。
1999年9月、11月に尾道市医師会ケアマネジメントセンター主催で実施した
尾道市医師会方式ケアカンファレンス実務研修(各6時間)延べ約220人の参加
(尾道市社会福祉協議会も参加)
開催場所:尾道市医師会館3F講堂
11月3日第2回研修の風景:参加者128名(医師48名・歯科医師8名)
主治医機能と多職種協働の方法論としてのケアマネジメント・カンファレンス実務研修
【参考】 尾道市医師会在宅主治医支援システム2005
医師会立介護老人保健施設「やすらぎの家」(96年5月開設)
一般棟50床、認知症専門棟30床、通所リハビリ25人定員、歯科診療設備、PT,OT,ST配置
感染症対策検討部会(98年)、
尾道市介護支援専門員連絡協議会・尾道市介護保険施設連絡協議会事務局
在宅介護支援センター「やすらぎ」(96年5月開設)
医師会立介護老人保健施設内に併設。看護師2名、社会福祉士1名の配置
(居宅介護支援事業所:尾道市医師会介護保険サービスセンターやすらぎ)
医師会24時間対応型ホームヘルパーステーション(98年12月開設)
医師会立介護老人保健施設に併設
尾道市医師会ケアマネジメントセンター(99年5月開設)
(ケアマネ・ケアマネジメント研修機関)介護老人保健施設に併設、尾道市医師会サービス評価機構
医師会訪問看護ステーション(95年10月開設)
(居宅介護支援事業所:尾道市医師会介護保険サービスセンターおのみち)
医師会館に併設、尾道地区訪問看護ステーション連絡協議会・在宅緩和ケアシステム事務局
尾道市医師会病診連携懇話会(96年設置) 名称変更(尾道市医師会地域医療連携懇話会2005年)
3中核病院との地域医療連携システム管理委員会、各病院長、副院長, 医師会長、副会長の12人で編成。
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