医師会ニュース

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2014年10月01日

***医師会だよりNo.12***

高齢者肺炎球菌ワクチンについて

 今年3月にギニアで始まったエボラ出血熱の流行は、半年経ってもコントロールできないままです。これまでスーダンやコンゴなどの中央アフリカが主な流行地域だったエボラ出血熱がギニア、リベリア、シエラレオネなどの西アフリカにおいて初めて流行したため、その感染拡大に世界中から注目を集めており、国際機関や各国がその封じ込めに奮闘しているものの流行は過去最大のものとなっています。9月3日時点で患者数は3,500人、死亡者数は1,900人を超えたことをWHOのチャン事務局長は報告し、「流行はさらに拡大している」と強調、封じ込め実現に向けて国際的な支援強化を訴えています。このように、現在西アフリカにおいてアウトブレイクしているエボラ出血熱ではありますが、パンデミックを起こしているとは言いません。パンデミックとは、感染症が世界的に大流行する事をさします。感染爆発とも言われます。世界中で百万人、千万人単位の死者が出ます。14世紀のヨーロッパにおけるペスト(黒死病)、19世紀以降7回にわたって大流行したコレラ、第一次世界大戦中の1918年に発生し、猛威をふるったインフルエンザ(スペインかぜ)などが該当します。
 日本において現在最もパンデミックを警戒すべき感染症の一つに新型インフルエンザが挙げられます。2009年(現在東京都知事の舛添要一氏が厚労大臣時代)に流行した新型インフルエンザは、メキシコの養豚地帯で遺伝子交雑により生じたブタ型インフルエンザウイルス(H1N1)が季節外れの世界的流行の原因となりました。欧米では少なからず死者が出ましたが、病原性は比較的弱かったとされており、日本では高齢者の罹患が少なく、早期診断と抗ウイルス薬の多用で健康被害は少なくて済み、むしろ過剰対応による社会的損失の方が大きかったと専門家により総括されています。このインフルエンザウイルスからは新型という冠詞はとっくに外されており、その後季節性インフルエンザに分類されています。熱しやすく冷めやすいという国民性もあり、インフルエンザに対する備えがおろそかになりつつある事が懸念されています。
 本当に警戒しなければならない新型インフルエンザウイルスは、動物、特に鳥類のインフルエンザウイルスが、遺伝子の変異などによってヒトの体内でも増殖できるようになり、ヒトからヒトへ効率よく感染できるようになったときです。ほとんどの人類が免疫を持たないため、世界中に爆発的に感染が広がり、健康被害だけでなく、これに伴う社会的影響も甚大なものになると予測されています。現在脅威とされている鳥インフルエンザ(H5N1型及びH7N9型)の発症者はインドネシア、ベトナム、中国などのアジアを中心とした地域に限定されており、日本ではまだ、ヒトでの発症は報告されていませんが、ヒト-ヒト感染が成立した場合は17万~64万人の死者が出ると推計されています。そのため、政府は現在、WHOの事前対策計画に準じた行動計画を策定し、プレパンデミック(大流行前)ワクチンの開発を行うなど、パンデミックの発生に備えています。
 ところで、平成23年から肺炎が脳血管疾患を抜いて日本人の死因の第3位となっていることをご存知ですか。年齢別に主な死因の構成割合を見ると、肺炎で亡くなる方の90%以上が65歳以上を占め、これは心疾患などにはない特徴です。今後も高齢化がより進むわが国において、インフルエンザの流行に関わらず肺炎による死亡がさらに増加ことは十分に予見可能であります。また過去のパンデミックインフルエンザにおいては、死亡例の多くがインフルエンザ罹患後の細菌性肺炎であったと報告されています。新型インフルエンザ対策においては重症化防止が最も重要であることから、市中肺炎の最も多い原因菌であって重症化しやすい肺炎球菌感染症に対する対応が必要である事は言うまでもありません。現在日本で使用されている肺炎球菌ワクチンは、安全に接種することが可能であり、侵襲性の肺炎球菌感染症に対する予防効果があるとともに、インフルエンザワクチンと併せて接種することにより更なる効果も期待できるため、諸外国ではインフルエンザワクチンとの同時接種が推奨されるとともに、その際においても有効性や安全性も高いことが報告されています。さらに肺炎球菌ワクチンは、一回接種すれば少なくとも5年間は有効です。今年から65歳以上の高齢者に対する肺炎球菌ワクチン接種の公費助成が尾道市においても始まり、以前よりも少ない自己負担で受けられるようになります。制度がやや複雑ですので、ご希望の人は市の健康推進課(TEL0848-24-1961)までお問い合わせください。